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相続相談を受ける際のポイント|相談者の信頼を得るには?
本記事では、相続の相談を受けるに当たって押さえておくべきポイント、注意しておくべき点について、主に弁護士以外の士業の皆様方に向けて、解説しています。
はじめに
相続相談については、弁護士に限らず、税理士、司法書士等の皆様方も、自身のクライアントからご相談を受けることも多いかと思います。相続の相談というものは、相談者ごとに多岐に渡り、個別の事案ごとの特殊性もあり、必ずしも皆様の専門領域のみでは適切な対応が難しい場合もあるかと思います。
しかし、だからといって、これまでお付き合いのあるクライアントからの相談に対し「こちらでは対応できない」という回答を行うことは、皆様方がこれまでに培われてきた信頼関係にマイナスの影響が生じうるともいえます。
そこで、専門領域以外の相続の相談を受けた場合にも、その後の信頼関係を維持し、さらに強固なものにするためのポイント、勘所を解説します。
加えて、当職は不動産を多く取り扱う弁護士ということもあり、相続における諸問題の中でも、不動産相続にまつわる問題点やその対応策について、深堀して解説します。
相続相談を受けるにあたってのポイント
1 相続相談の勘どころ
(1) 総論
相続の相談は「相談のタイミング」によってその内容が大きく変わります。相談者の相談が「相続発生前」か「相続発生後」か、それによって意識すべき点、相談の進め方、アドバイスの内容にも大きく変化します。
また、専門家(士業)ごとによって、資格上の対応可能範囲も変わるところです。気付かぬうちに非弁行為等で懲戒・処罰を受けることを防ぐため、この点についてもきちんと留意することが重要です。
(2) 相続発生前の相談
相続発生前の相談では、
①紛争予防段階での相談が多い
②相談者側も相続問題について一定の意識(知見)があることが多い
③相続(税務)対策についてさまざまな手が打てる段階である
以上3点をまずは意識する必要があります。この点を踏まえると、相談者を満足させるためには「どのような相続(税務)対策を行うことができるのか」という観点から相談を行う意識を持つ必要があります。
具体的に意識すべきトピックとしては「被相続人の意思能力」「財産の種別とその割合」「二次相続への意識」という3点が挙げられます。相談者が念頭に置く(相談時に主たるトピックとして話題が割かれる)相続上の問題点に縛られず、広い視野を持つことが、相続前の相談に対応するにあたっては特に大切といえるでしょう。
(3) 相続発生後の相談
相続発生後の相談では、相続発生前と異なり、既に具体的な紛争が生じていることが多いため、相談自体は具体的な紛争・問題点に関して進めていく形で、ある程度スムーズに進むパターンが多いといえます。
一方で、こちらの類型では、相談者側で問題視していない(または、問題にならないと考えている)ポイントも多く、相談を受けた場合には、これらの点も問題になり得ると指摘する必要があるといえるでしょう。
2 不動産相続対応におけるポイント
(1) 不動産特有の性質について
不動産の相続について考えるにあたっては、まず、不動産の持つ性質そのものについて理解する必要があります。本セミナー動画では、不動産の持つ主な性質(うち、相続に関連するもの)として
①不動産は固定資産であること
②不動産は物理的な分割は難しいこと
③当事者(相続人)以外の第三者が利用・管理する場合があること
といった3点に整理し、それぞれに解説を加えています。
(2) ポイント①:不動産の固定資産性
不動産の固定資産性は、端的にいえば「現金化しにくい」ということです。これは、不動産相続を受けた側では、すぐにはプラスが生じにくい、ということです。
一方で、相続税・遺留分等の算定においては、不動産は相続発生時点で評価されます。これらの点は、不動産相続を受けた相続人にとってはマイナスの事象といえます。
すなわち、相続人にとって、不動産を相続したことにより、一時的に大きなマイナスが生じ得ることになる場合がある、ということです。相続させる側(被相続人)にとって、自身の不動産を相続人に相続させるのは、当然ながら、相続がその相続人のためである、という前提であるはずが、相続人に不利益な結果を生じさせてしまう、というのであれば、これは相続対策云々以前の問題になってしまいます。
そのため、生前に相続を考えるにあたっては、この「現金化しにくい」という性質からマイナスが生じないように対策を打っておくことが何よりも重要です。
(3) ポイント②:不動産における物理的分割の困難さ
不動産というのは、金銭等の流動資産と異なり、物理的に分割することは困難です(預貯金であれば、1000万円を二分割する、というのは比較的簡単ですが、不動産を二分割するのは、建物などでは事実上不可能ですし、土地についても、活用上現実的ではない場合が多いところです)。
もちろん、法律上一つの不動産を分割して相続・共有するという概念自体は権利として存在しますが、不動産の共有状態というのは、単に各共有者の権利が持分の限度に制約される、という単純なものに留まりません。単独所有の場合と比べると、様々な点で不動産の権利行使に関しての制約が生じることになるといえます。
具体的には「不動産の処分(変更)」「不動産の管理」それぞれにおいて法的な観点から制約が存在します。これだけでも大きな問題ですが、さらに注意すべきなのが、共有者の一部が所在不明、または意思確認が取れない状態にある場合です。
このように、不動産が共有状態になるということは、不動産の利活用の観点から見て多大な制約が課される状態を強いる、ということになります。相続を考えるにあたっては、「共有状態を生じさせないこと」を常に意識するとともに、共有状態を回避するために取り得る方法か、その方法がそのほかの点(税金、遺留分等)を踏まえて現実的なものといえるか、という点を念頭に置いたアドバイスを意識することが重要です。
(4) ポイント③:不動産の第三者利用・管理
不動産のうち、特に収益用不動産の場合は、所有者(被相続人)以外の第三者が(賃貸借等により)利用していることが多いです。またその場合は、間に管理会社を入れて事務管理等含めて任せているパターンもよく見られるところです。
このような不動産を相続する場合、多くの場合は、そのまま収益用物件として活用することを念頭に相続を考えるものといえます。そうなると、相続させる側(および、相続を受けた側)としても、特段利用・管理状況に変動を生じさせるものではない以上、その物件を相続させれば、相続人側で滞りなく物件から得られる収益を取得することができる、と単純に考えてしまうことがあります。
これは、相続というものの性質(自身の一切の資産・債務が相続人に相続される)という点を理解しているが故の認識の誤りといえます。相続といっても、死亡時点において被相続人が有していた権利義務の全てが相続の対象となるわけでは必ずしもありません。権利義務の中には、当事者の死亡をもって消滅するものも存在するためです。
また、以上の点に関連して、収益用物件から発生する賃料についても注意が必要です。賃料については、相続対象である不動産から招じるものである以上、当然に相続財産の一部に含まれるだろうという認識のもと、不動産相続にあたって特に注意を払われていない事例が散見されますが、実は賃料については法律・判例上、必ずしも相続財産には当たらないという解釈が一般的です。
(5) 小括:不動産相続対応におけるポイント
以上にて言及した点からもお分かりいただけるかと思いますが、不動産というのは基本的に「動かしにくい」財産です。相続においては、被相続人や相続人をはじめとして、その取引先、財産の保管・管理先等、様々な当事者が関与することになりますし、その当事者間で様々な権利変動が生じることにもなります。しかし、先に述べた、不動産の「動かしにくい」という性質は、相続という場面においても変わりませんし、変えることもまたできません(相続に関する各種制度は財産の承継に関するものであり、対象となる財産の性質自体を変えるものではない、ということです)。
そのため、不動産の相続にあたっては、解説したような不動産の持つ性質を前提に、相続全体をどのように構成していくか、というアプローチが必要といえるでしょう。
おわりに〜「相続に詳しい」と思ってもらえるために〜
今回の記事では、相続相談を受けるにあたってのポイントについて、不動産の相続を中心に解説しました。
本記事をお読みいただいた皆様方にお伝えしいたい点は、以下の通りです。
1 相談者のニーズの把握
はじめにお伝えしました通り、相続の相談者は「紛争予防」「紛争解決」いずれかを求めています。このように、同じ相続という問題に起因するものであっても、相談者によって正反対のニーズを持つという点が、相続相談における一つの大きな特徴といえるかもしれません。
相続の相談を受けるにあたっては、ここの事案における具体的な問題点を検討する大前提として、目の前の相談者が、このいずれを重視しているのか、という点を早期に見極め、把握することが何よりも重要です。
この点の把握にあたっては、まずは相談者の話を聞くことが第一です。この際に意識しておいた方が良いのは、相談者側が自身のニーズ(要望)をきちんと整理しきれていない場合もよくある、ということです。相続というものは何度も経験するものでもないため、多くの方が初めて対応する事態であり、現状を伝えるのがやっと、というパターンもまま見られます。
このような場合は、相談を受ける側である程度事情を整理しながら話を進めていく、という姿勢が非常に重要となります。これは事案を早期に把握できるというメリットだけでなく、相談者の信頼をつかむ第一歩となり得る、という点からも意識すべきといえるでしょう。
2 ツボを押さえた対応
本記事では、相続相談を受けるにあたってのポイント(留意点)として、様々な事項に言及しています。
ただ、実際のところ、相談時にこれらの事項に関する問題点を全て把握した上で、解決に向けて適切な指示(アドバイス)を出すというのは現実的ではありません。これは、限られた時間ですべての事情を漏れなくヒアリングすることが困難であることに加えて、これらの問題点を全て解決するためには、各士業の専門領域を横断する形で専門知識を把握・整理しておく必要があるためです。
相続相談を受ける皆様方に意識していただきたいのは、具体的な解決策の提供まで至らなくとも、「問題意識」を共有できれば十分、ということです。
つまり、相談の中で問題点を指摘し、問題意識を共有することができれば、個々の問題点については、それは次回以降の相談(または実際の依頼を受けてから)で進めれば足りるためです。「問題意識」さえ共有できれば、相談者の目から見て「よくわかっている」という印象を持ってもらうことになりますし、相談段階(依頼の可否の判断段階)においては、そこまでの印象に至ることができれば十分といえます。
3 他士業との協業の意識
相続は、関連する分野としてはいわゆる民法等の相続法分野に限られず、税務、登記業務、そのほか各種財産評価等、多岐にわたります。そして、これらの分野は、そのそれぞれについて深い専門的知見が求められます。
つまり、相続問題を解決するにあたっては、実際のところ一士業のみの関与では十分ではない、というのが、当職の率直な意見です(無論、相続分野の全体的な理解のために、専門領域以外の関連法を学ぶことそれ自体が無駄、というわけではありませんが)。
実際に、相続手続を進めるにあたっては、弁護士、司法書士、税理士等複数の士業が関与して進めることが一般的です。「相続に詳しい」と相談者に思ってもらうために、必ずしも自身のみで全てが対応可能、というアピールをする必要はない、ということです。
むしろ、問題意識を共有した上で「自分としてはこの点は対応できるが、他の点は、他の専門士業に対応を確認してもらった方が良い(ので、知り合いの先生を紹介する)」という対応こそが、専門家として真に誠実な対応であり、また、相談者にとっても「無理に一括で受任しようとしていない」という余裕のある印象を与え、結果として信頼の獲得に繋がるものといえるでしょう。
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